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憑き物落とし

  • 執筆者の写真: HIROKAWA YOSHITSUGU
    HIROKAWA YOSHITSUGU
  • 6月1日
  • 読了時間: 4分

更新日:6月2日

 京極夏彦が好きで特に京極堂シリーズは何度も読んでいます。最新作「鵼の碑」も大変良かったですね。緻密なプロットと歴史文脈の新しい発見で睡眠が削られます。私が好きなのは「絡新婦の理」塗仏の宴」「鵼の碑」です。

 

 さて、この京極堂シリーズで中核となるのが「憑き物落とし」です。主人公は陰陽師として人に巣食った憑き物を「憑き物落としの作法」でその対象となる人を解放していきます。実際のバケモノやモンスターが出てくるわけではなく、人が抱える深刻な観念や囚われを表現しています。それがきっかけで陰惨な事件が起こります。「憑き物落とし」は「何の憑き物」なのかを特定し、それに合った正しい呪式を発すれば落ちるという論理構造を持ちます。


 その際に捉えるべきポイントとしてその個人に何か障害があるという捉え方ではなく、人と人、人と世間の間に存在する膜にフォーカスすることが大切であるというくだりが出てきます。


 この「憑き物落としの作法」は実生活、特に固定された多くの人と仕事をする必要がある「職場」において非常に有効であると考えます。職場の悩みの大きな要因が人間関係。特にその人個人というよりも組み合わせ・掛け合わせ・相性というのが大切というのはよくある話だと思います。この職場における人間関係を解消する際に面談や研修や待遇アップや異動など色んなアプローチがあると思いますが、「憑き物落としの作法」を取り入れてみるのは面白いと思います。


 実際に私は京極堂シリーズを読んでいてよかったです。前職で新卒からマネジメントに役割が変わっていく中で組織内の課題が発生した際に、そのあり様を憑き物の観点で捉えることが役に立ちました。「この人、このチームは何に憑かれているのか」「この憑き物を落とすにはどう解いていけばよいのか」。


 自分も含めて組織の中においては全ての人が何かに絡め取られている。


 例えば、シンプルなケースですが中途採用で入ってきたミドルマネジメントの人は最初の2ヶ月目で必ずこう言います。「この会社は会議が多いよね」。伝え方が悪いとそれが周りをイラッとさせます。こうして憑き物が大きくなっていきます。


 ではこの場合どういうメカニズムなのか。ミドルマネジメントは即戦力を求められて入ってきます。鳴物入りであればあるほど短期的に何か成果を残さないといけない。ただ売上向上に寄与するには時間がかかる。なので効率化、コストダウンの方向に向き、大体2ヶ月目で「会議が多いよね」。文字通り会議が多い場合もあると思いますが、「絡め取られた発言ではないか」と少し引いてみるという態度が大切なのかもしれません。その際には私は言います「より良い会議の全体設計をやりましょう」と。もしかすると「成果を上げなければいけないプレッシャーという憑き物には承認と協力体制」という作法が効く気がします。


 絡新婦の理」では印象的なシーンが出てきます。マージナル(境界線)が分からなくなり自分のアイデンティティを喪失した犯罪者が出てきます。その際に主人公京極堂はある呪を発し憑き物を落とします。ネタバレになるので是非本編を読んでその論理構造、その呪の緻密さを味わってください。実際に使うことができます。


 他にも「上司が変わらない」「若手の積極性がない」「同期が仕事をしていないのに評価される」「会社が何を目指しているのか分からない」などなど。全て憑き物!


 不思議なことなど何もないのだよ関口くん。と職場でも言ってあげる人が重宝されると思います。AI時代には憑き物落としが活躍します。


 本人に責めを帰すのではなく、それぞれに憑き物落としの作法を捉えることができると憑き物が肥大化することなく、事件がなくなりより良い職場になる気がします。


 真剣に憑き物落とし研究をしたいと思います。もし職場における憑き物落としの作法について興味ある方は勉強会をしましょう。お気軽にご連絡ください。



 

 







 
 

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